デッドマンズおサウナーランド
外の世界
温度と湿度のバランスが取れた熱いサウナ室
15度をキープし緩いバイブラで微かな対流を感じる水風呂
鳥のさえずりが響き涼しい空気が流れる木陰の外気欲
完璧なサウナな筈なのに・・・満たされない
理由は分かっている、ここには僕一人しかいない
「おい、1137番、お前は一体何をやってここに来たんだ?」
「・・・僕は何もやってない、ただサウナに入ってただけだ」
「なるほどねぇ~お前さんもやっぱりサウナ犯かぁ・・・最近多いな。まぁ何はともあれこれからお前さんと俺は同室同士だ、俺は268番、よろしくな」
サウナはいつの間に趣味の範疇を超え日本にも文化として根付き、全国民老若男女問わず親しまれていた。
しかしそれは過去の話。
某国の研究結果により、サウナと水風呂、外気浴を繰り返すことにより脳内にエンドルフィンが平常時の20000倍の量が過剰供給され、結果として更なる多幸感や快楽を求めるようになると発表され、その通りに常にサウナへ行きたいがため仕事を辞める、より高級サウナに入り浸るために強盗に入る、サウナの在り方を巡り殺人を犯す・・・などサウナをもとにした様々な社会問題が発生した。
事態を重く見た日本政府は20XX年サウナ禁止特別法、通称”サ特法”を施行させた。
これによりサウナ使用者は逮捕され、執行猶予無しの有罪判決により最低30年~最高終身刑の懲役を受ける事となった。
しかし・・・それでも猿が一度覚えた自慰行為を永遠繰り返すかの如くサウナの快楽を忘れられない、入らないと死んでしまうと嘯く人もおり、表向きには全滅したが各地にはひっそりと”闇サウナ”が横行するようになり、年間の逮捕者は薬物使用者の1.5倍以上に膨れ上がった。
「来いよ、お前さんがこれから人生の大半を過ごすところだ、案内してやるよ」
268番はニヤリと笑い、浅黒い顔を歪ませながら口からは前歯の無い白い歯を輝かせた。
「あそこの階段を降りると食堂、味も量もサ飯には遠く及ばないと思うが朝昼晩ちゃんと出してくれるから文句は言えねぇな。そして食堂の奥のドアの先は作業場だ。平日5日間朝9時から夕方5時までみっちりと働かされるぜ。で、あそこの扉の奥はシャワー室・・・もちろんサウナなんて無いし、風呂も無い、シャワーだけだ。2日に1回、夜の8時から1人につき5分だけ使える。まぁととのってる暇なんて無いだろうなぁ」
「268番さんもサウナで捕まったのか?」
「いや、俺がここに入ったのはサ特法が出来る前だ。ただシャバに居たころはサウナには週1日は行ってたな。知ってるか?下野にある・・・いや、あった南欧ってサウナ屋。そこに行ってサウナ入ってカレーをよく食ってたよ」
「行ったことは無いけど知ってる」
「まっどうでも良いさ、昔の事なんて。俺たちは今を生きなくちゃいけねぇ。良いか、ここで生きる術を教える」
「生きる術?ただの刑務所じゃないのか?」
「お前さん・・・ここが何て呼ばれてるか知ってるか?」
1137番は首を横に振る。
268番はやけに声を強張らせながら、静かに、重く言葉を発した。
「デッドマンズおサウナーランドだよ」
つづく(つづかないかも)