その冷たさに触れて
よく晴れた1日だったが風が強く、その思い出も温もりも吹き飛ばされそうだなと思った
喫煙所でタバコを吸いながら、勢い良く空に流されていく黒煙を眺めてた
いつまでも会場に現れない従兄弟は結局30分以上遅刻して現れた
久々に会う従兄弟は俺よりもひとつ上のはずなのに、髪が女性かと思うぐらい長くなってる事以外変わってなかった
声も、顔も
6、7年前に行われた従兄弟の妹の結婚式に彼は寝過ごして来なかったので約15年ぶり
Web動画やテレビのイラストレーターとして活躍しており、渋谷の松濤に住んでるとの事で見事に才能を開花させた人間だと思う
とにもかくにも、これで親族が本当にいつぶりか分からないぐらい全員揃った
神妙な雰囲気の漂う空間
粛々と取り仕切られる儀式
黒い額縁の中で笑う写真を見て初めて実感した
旅路の支度
いつの間にか痩せ細った足に触れると、ゾッとする程冷たかった
その冷たさに恐怖さえ覚えた
そして悲しくなった
足袋を履き、手袋を付けて、六文銭を胸元にしたためさせる
約30分程で支度が終わった
今日はもうこれでやる事は無い
最後帰る前に、祖母が1分程棺の中を覗き込んでいた
何となく人が多い所へは行く気になれず、川口のひろいサウナへ行った
中は殆ど和彫が入った人たちだった
サウナ室は常に4〜5人ぐらいおり、和彫のおっちゃんがどんどんテメェロウリュするからかなり熱かった(本当はダメだけど)
薄明るいサウナ室で皆と違わず黙々と蒸される
何も考えないでいようとすると、棺を覗き込む祖母の姿が脳裏に浮かぶ
そして熱いサウナ室で、2時間前に触れた冷たさと額縁の中の笑顔を思い出し、我慢していた涙が少し出てきた
祖母が棺を覗き込んだあの1分間にどれほどの想いがあったのだろうか?
そんなもの計り知れるはずも無い
生と死を分かつ決定的なものは体温なのかもしれない
ここがサウナで良かった
ここなら誰も俺の事を気にしないし、汗が違うものを隠してくれる
水風呂は相変わらず不思議な爽快感があり、禊の如く全てを受け入れ、赦してくれる気がする
今日来たサウナがここで良かった
危ない話に花を咲かせる常連達の間をすり抜け、受付でサイダーとライターを貰って外に出る
風はまだ強く吹いていた
いっその事、この感傷さえも吹き飛ばして欲しい
その思い出と温もりとともに